ピアノの大渕雅子は、これまで様々な演奏活動を行ってきたが、本格的な自主リサイタルは初めてとのこと。前半にシューマン=リスト≪献呈≫、シューマン《アベッグ変奏曲》と「ソナタ第2番」を置き、後半にラヴェル《水の戯れ》、リスト《エステ荘の噴水》、ショパン「バラード第3番」と《アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ》を並べたプログラムを高度に安定したテクニックと充実した内容で聴き手を魅了した。どの曲も、軽快なテクニックで弾き飛ばすようなところは微塵もなく、細部まで神経を行き届かせた上で、独特の音楽性豊かな表情を盛り込み、濃密な表現と大きなスケール感を感じさせる演奏を展開した。とりわけ注目されるのは、このホールで初めて聴くような輝きのある美音と、杓子定規でないテンポやリズムの動きによる感興の豊かさだった。